2018年4月13日

   :“ブラック・ダイヤ”
    ㈱童夢ホールディングス 林みのる氏より、「かなりおおげさだが」との評価のもと、「どうぞ」と掲載承認済み




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の開発技術は、ホンダからの「全日本ツーリングカー選手権(JTCC)参戦用レーシング・アコード」の空力開発受託に始まり、さらに関係を深めて「全日本GT選手権レース参戦レーシングカー・NSX」の開発そのものへとつながっていく。

さらにこの頃から林氏は、一種の用途開発とも言えるが、カーボン・モノコック構造の、衝突時の安全性が高い、という自動車に採用された場合の大きな特徴を早期より打ち出し、「カーボン・モノコックは、軽量高剛性が要求される、あくまでプロフェッショナルなトップカテゴリーのレーシングユースに限られる」という業界一般の風潮に対し、カーボン・コンポジット製品の安全面での啓蒙を始めている:

「他人の子供をあずかるにしては安全意識が希薄だ、と半ばおどかすようにして」


レーシング・ドライバー育成のスクール教習車、つまり、ビギナーユースのレーシングカー、それまではアルミ・モノコック製のそれをカーボン・モノコック構造製へ変更することを提案し、1999年には50台の新型車を受注するも:

「3年の経年変化で買い替えを期待していたが、高剛性過ぎて15年経っても経年変化がなく、追加受注がない。どこかの靴下のように穴があくようにしておくべき営業戦略的失敗作」


と、面映ゆさゆえなのか、悪態を全面に装うことで、自らうやむやにしてしまっているが、安全性と長い製品寿命という、それまで見過ごされてきたカーボン・コンポジット製品の利点を証明する。



001年.カーボン・コンポジット製品開発・製造を別会社として事業化するために、カーボン・モノコック製オートバイ「ブラック・バッファロー」と(前述の)童夢F1プロジェクトカーF105のカーボン成形を担当し、すでにその100%が、童夢からの業務とまでなっていた㈲ウイスカーを吸収し、拡大する形で、新会社 ㈱童夢カーボン・マジックを設立する。

   
   
   
   
 


カーボン成形の代表的技術である「プリプレグ方式」の主体装置である、オートクレーヴ炉を、国内最大級サイズ(内径3.6m)を筆頭に、各種サイズごと(1.98m/1.2m/0.6m)に装備。いくつかの製法の中で、「プリプレグ方式」は、機体の50%をカーボン・コンポジットが占めるボーイング787にも適応されている、主として高品質用途の主流製法。だが同時に高コストでもある。

じつは、それらオートクレーヴ炉は、カーボン事業にブームに乗じて着手するも、何らかの理由で撤退を余儀なくされた他社から有利な条件で調達してきたもの。つまり、カーボンブームというビジネスチャンス的なタイミングを取ってオートクレーヴを導入しただけでは成立しなかったという遺産であり、それがノウハウ事業であるということだ。

オートクレーヴは本体が鋳物であるため、中古品でも全く劣化がなく、ヒーターや制御機器だけリニューアルすればよいという、さすがに使いこなしのポイントを押さえた低イニシャルコストでの立ち上げではあったものの、カーボン製品のカッティング用のウォータージェット、成形の型を切削するCNCマシンも揃え、童夢が国内で唯一であるにせよレーシングカー・コンストラクターというビジネス上のボリュームを勘案した身の丈を考慮すれば、同時期の、莫大な投資となった「50%ムービングベルト風洞実験装置」と相まって、常軌を逸するものと映った。しかし:

「レーシングカー・コンストラクターをやめるか、それともそれらに投資をするかの二択。私たちに、レーシングカー・コンストラクターをやめるという選択はなかった」


と極めて明快に語る。



ーボン・コンポジット事業に限らず、レーシングカー・コンストラクター童夢全体をケーススタディとして扱った場合、その成果と成功は、外部環境分析などといった経営手法による「ビジネスチャンス」という機会だけで、瞬間的に何かが得られるようなものはどこにもなく、目的ありきの情熱と粘りで、継続的に腰を据えて取り組まなければモノにはならないものから、大胆なリスクテーキングを伴いつつ生まれている。これを生むのは、レーシングカーづくりが「好き」であること。すなわち、論理的整合性のみで事業の成否を判断しようとする現代のビジネスアプローチでは、童夢の軌跡と奇跡は説明ができない。「好きだから」という文言は、まちがってもビジネスプランに書き添えられることはないが、それが分かれ道となる事業があるとすれば、現代は「ロジカルな経営」の例外こそが、大成功として扱われる(ことがめずらしくない)という皮肉な時代と言えるだろう。

一方、このころ林氏は、

「これだけの設備をみて、『いったいどんなレーシングカーをつくるつもりだろう。』などと、のんきなことをいう人もまだいるよ」


と言外に、ただしまったくの他人事のように、なんら意気込むことも、もったいぶることもなく、航空機業界への関与をそれとなく、ほのめかし始める。

もちろん、具体的なジョブについては一切コメントされることも、されたこともないが、例えば787を購入する国の購入量に比例して、(その国に)部品が発注されることになっており、ルールに従えば世界中の国に発注される。しかし、そのレベルの物が作れるところは少なく、日本などそれが可能なところへの発注が多くなっているのが実情。そうなれば、おのずと察しがついてくる…察するしかできないが、それは「技術的可能性」のあるところ、でしかないはずだ。童夢への外部からの関心は、レーシングカーとは無関係なところからも、勝手に色めき立ち始める。

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