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HRC64程度までの高硬度材料に対してCBNやセラミック製のチップによって旋削加工を行うことは、欧米を中心に実用化されて一般化されつつあります。
材料の応用は:
■ベアリング鋼
■工具鋼
■高速度工具鋼
■ダイス鋼
■ワスパロイ合金、ステライトなどの航空宇宙業界用材料
■ハードクロームコーティング材
などにまで拡大しています。
具体的な製品応用例は、ベアリング、ギアシャフトやインジェクター部品といった、質・量ともに高次元の品質が要求される自動車の量産部品から、その柔軟性を活かして様々な業界の試作用途にまで拡がっています。
また、ハードターニングは引っ張り応力となるので避けるべきという通説がありますが、欧米では逆に圧縮応力になるというのが一般的な見方であり、これはむしろなんらかの理由で異常な発熱が急冷されたことにより引っ張りとなったものである可能性があり、研削においても条件が揃えば同様の現象は発生します。また加工面の白層についても同様であり、むしろハードターニングによる白層が(研削よりも)薄いという研究結果が英国の学会で発表されています。したがってこれ以上、ハードターニングの導入に躊躇する理由をもはや見出せない状況にあります。
上記を理解しつつも、研削の代替としてハードターニングを過去に検討したが見送ったという経験がおありではないでしょうか。たとえば「変色した」「刃物寿命が短い」「精度に問題」などです。数回のトライだけでハードターニングを判断するのはたいへんな機会の喪失です。機械側が必要な条件を満たしてさえいれば、それらの多くは「刃物への十分な理解」と「加工部位と特性の理解」「優先順位の決定」に多少の余地があった可能性があります。ただし、これはハードターニングの成功は機械側の能力に関係がないということではなく、機械側への絶大な信頼があってこそ初めて真剣に取り組む価値のある課題になります。その機械はハードターニングに必須となる、超硬バイトと比較して三倍とも四倍とも言われるCBNバイトに有効な切削速度を与えることができるのか、研削砥粒と同様にネガティブアングルのすくい角に伴う強い切削力に耐えうる構造なのかについては、最低限の前提となります。
”木を倒すのに6時間もらえるのならば、斧をとぐのに4時間をついやす・・・・リンカーン”
研削加工を行う砥石の場合、刃物に相当する砥粒は無数であり、またそれが平均的に負荷を請け負うことに対して、ハードターニングはシングルポイントでの旋削であることは、前述のメリットと表裏一体です。単体で加工しているという事情を十分に理解すること、すなわち、”刃物と切削条件への十分な注意と理解”が必要です。従来であれば後工程の研削があることから一定幅の公差が許されてきたこれらは、一般的な範囲での理解で問題が起こることはありませんでしたが、ハードターニングにおいては、砥石を選定することと同等以上の配慮が大前提となります。
■たったひとりへの過酷な条件・・・砥石の選定以上の配慮が必要 |
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ハードターニングのメリットの裏返し、それは”刃先が単独”であることの過酷さです。 集団の砥粒からなる砥石による研削と異なり、刃先単独で加工を引き受けるターニング。要求精度が研削と同等であるという過酷な条件が、精密ハードターニングにはさらに加わります。すなわち、刃物選定への配慮は、砥石の場合よりもさらに必要になります。そして、それらの検証は、ハードターニングの特性が反映された専用設計の機械をベースにすることで、因果関係が明確となり、体系的に知識化されて、ユーザー独自の優位性となります。 |
■サーメットか?セラミックか?CBNか?さらにその含有率はどうか?精度要求や寿命の分岐点は?
■シャープエッジ、面取りエッジ ホーニングエッジか?またはその組み合わせか?
■すくい角、刃先R、リード角はどうか?そのコンビネーションは?
また、クイックチェンジホルダは、複数のツールを使用する場合には重宝ではあるももの、ハードターニングにおいてはクランプ力の視点からはベストとは言いがたく、したがってタレット型のツールチェンジは特に理由がない場合には使用しません。機械側の精度を正確にワークに転写すること、振動や熱といった外乱に左右されないこと、負のすくい角によって生じる切削力を極力最短で剛性のある機械側で受け止められるようにすることが重要となります。
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(左下の)砥石による加工は、砥粒が負のすくい角となるため、加工に必要な力が大であることのみならず、その結果、加工部の発熱が大となるために、研削盤には高い動的・熱的剛性が要求されます。研削盤の能力評価に、それらの剛性が大きく係わっているのは、本質的には加工作用の特性から来ています。 | |||
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![]() 一方、研削とハードターニングの加工の作用がほとんど同じであるという事実は、ハードターニング特有の技術的問題 (引っ張り応力の定説など)というものはなく、研削においても条件が同じであれば同じ問題が発生しうるということに加えて、ハードターニングは、すでに十分に実績のある確実な加工作用を利用しているという点において、リスクを過大に見積もる必要がないことが理解可能です。。 |
なお、加工における発熱は必ずしも不要なものではなく、ある程度の高温状態においては、切削力抵抗を下げ、加工を円滑にする作用があるため、切削速度(主軸回転)を下げることで発熱は抑えられる一方、高温下で促進されていた円滑効果が少なくなることから、切削抵抗の上昇による刃物の破損に対する注意が必要となります。
このような前提は、ハードターニングの実用化と”機械の能力”とは無関係であることは意味しません。むしろこの2つは高次元で組み合わさることで相互のポテンシャルを引き出していきます。
外径であれば、リード角の設定が刃先Rの寿命に影響があり、すくい角は多くがマイナス設定ネガティブとなりますが、ボーリング加工では、切削力は垂直方向に加えてねじれ方向にはたらくため、違った考え方が必要です。また、刃物とスピンドルの芯出し位置の傾向についても両者は異なります。
また、刃物の靭性を増す、ハードターニングでの効用が高い「負のすくい角」は主軸の出力を20%消費しますので、切削距離をかせぐために切込みを大きくする場合には主軸の出力が十分であるか、またその背分力を機械が十分に受け止められるの配慮が必要です。加えて、断続面の加工において、コスト面で優位なセラミックチップを使用したい場合にはヒートショック対策としてドライ切削を行うことが必要となります。その結果、熱伝導性の高いCBNへの転換という結論が導かれるかもしれません。
このように加工部位毎に異なる特性を考慮して刃物の仕様は決められ、また切削条件は調整されるべきものです。
砥粒の自生作用に期待が可能な砥石と異なり、シングルポイントで加工を請け負うハードターニングは、諸要求に答えつつ切刃の状態を長く維持するという精密加工の原則をさらに要求されるといってもよいでしょう。例えば、薄物加工の場合に、形状精度を追求するために弾性変形を軽減したいとします。それには半径方向の配分力を小さくする目的で(切削抵抗低減のために)刃先Rを小さくすることは有効です。一方、刃先Rが小さくなれば、面粗さ達成のためには、より送りを小さくすることとなり、結果的に切削距離が延びることとなり、寿命にはマイナスに働きます。また、小さい刃先Rは熱の集中が起こりやすくなるため、リード角の変更などによって対策ができないかの検討も必要かもしれません。
また、経験を積むことで、例えばHRC62の硬度を持つD6の材料に対して、最も刃物寿命が長くなるすくい角は何度といった独自データが、解決策となるかもしれません。
一方、耐摩耗性はCBNに劣るものの、コスト面で優位なサーメットを使用し、さらにその特徴である「切削距離に正比例する磨耗進行」をツール交換のインターバルとするといったもっとも簡易的な方法が合理的かもしれません。
刃物の仕様は、ほとんどがプラス面とマイナス面を併せ持っているために、必然的にまずは優先順位を決定し時には変更を加えながら、かつ独自データを加味して最もバランスのよい状態にセッティングを行うことが重要になります。